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      人材

      ベンチャーで働くという選択肢

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      皆さんはベンチャー企業を、次のキャリアの選択肢として考えたことはありますか。多くの人が一度は耳にしたことはあるかと思いますが、その実情を知っている方は少ないかと思います。一言にベンチャー企業といっても、大学発の技術シーズを事業化する会社もあれば、新しいビジネスモデルを創造して勝負する会社もあり、それぞれ特徴はありますが、大企業と比較した場合には共通する特徴が数多くあります。大学で学んだ知見や研究を何かしらの形で生かしたい、次のキャリアを探している、自分が活躍できる場所を探している皆さん。ぜひ一度ベンチャー企業に就職する事を選択肢に入れてみませんか。ここではみなさんと同世代の大学生・大学院生のキャリア感とベンチャー企業側のニーズをご紹介します。この記事はincu・be vol.51に掲載したものです。バックナンバーはこちらから

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      認識され始めた“ベンチャー企業”という選択肢

      大手企業とベンチャー企業、どちらを志望しているか

      求められる技術開発・コミュニケーター人材

      以下のアンケート結果から、ベンチャー企業の多くは「技術開発の担当者」や、「営業・販売促進の担当者」を求めていることが分かりました。技術開発担当者にはもちろん高い専門性が求められるでしょうし、営業・販売の担当にも自社の技術を理解し世界へ伝える熱を持つコミュニケーター人材として研究者の活躍の場がありそうです。

      調査概要 本調査結果は、一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターにより作成された「ベンチャー白書2018」を参考とした。実施概要は以下の通りとする。対象企業:設立5年以内のVB(ベンチャービジネス)、調査期間:2018年5月8日~6月7日、調査方法:Webアンケート方式、対象企業数:1,667社、有効回答企業数:153社(9.18%)

      回答企業業種 通信・ネットワーキング及び関連機器5.9%、コンピュータ及び関連機器・ITサービス35.9%、ソフトウェア11.8%、半導体・電気一般2.6%、バイオ・製薬5.2%、医療機器・ヘルスケアサービス11.1%、工業・エネルギー・その他産業5.9%、メディア・娯楽・小売・消費財8.5%、金融・不動産・法人向けサービス11.1%、ロボット関連2.0%

      (図)現在あるいは近い将来の経営ニーズ、人材ニーズ

      生体変化をつぶさに読み解く、東工大発の新技術に魅せられて

      田畑裕貴さん
      aiwell株式会社研究支援事業グループ研究員田畑裕貴さん/日本大学生物資源科学部海洋生物資源学科卒業後、同大学院へ進学。その後、東京大学医科学研究所遺伝子解析施設にてコスミドベクターの作製、SBIバイオテック社にて免疫治療薬の評価、微生物化学研究所にCRISPR/Cas9を高度に発現するアデノウイルスベクターの作製に従事。2020年5月より現職。

      「創薬の世界に革新を起こす技術がここにはある」。そう語るのは、2020年5月にaiwell株式会社に入社した田畑裕貴さんだ。学生時代には海洋生物に興味を持ち、マダコの唾液腺キチナーゼの精製と性質の解明に取り組んでいた研究者が、なぜ全く違う分野のベンチャーへ飛び込む決意を固めたのか。彼の轍から見える、ベンチャーの魅力について伺った。

      未来にあるべき健康管理社会を目指して

      「世界中から未病を無くし、人をずっと健康にする」というビジョンを掲げ、指定国立大学法人東京工業大学から2018年8月に生まれたaiwell株式会社は、AIプロテオミクスという新技術を駆使し、病気の早期発見や健康管理を目指すベンチャー企業だ。

      プロテオミクスとは、生体内のタンパク質の種類や状態を二次元電気泳動法などを用いて網羅的に解析し、生体に起きている変化を捉える研究手法だ。これまで、その煩雑さやコストの面から一部の研究・医療機関でしか活用されてこなかったが、aiwellは、多種大量の二次元電気泳動画像をAIに学習させることで、より簡便に短時間で解析結果を導き出す「AIプロテオミクス」の開発に成功した。田畑さんが、そんな人々の健康状態を見える化しようと挑戦するベンチャー企業の門を叩いたのは、創薬業界の課題を目の当たりにしたからだという。

      研究所にて電気泳動をおこなう田畑さんの様子
      研究所にて電気泳動をおこなう田畑さんの様子

      実務経験から生まれた課題感が架け橋に

      「幼い頃から研究者になって社会に貢献できる仕事をしたかったんです」と語る田畑さん。aiwellに入社する以前には、自身の思いを実現するため研究職専門の派遣会社へ就職し、多様な研究機関・企業に所属して、技術を磨き実績を積んできた。その中の1つに、人生の転機となる創薬系ベンチャー企業での治療薬開発があった。

      一般的に創薬研究では、血液中に存在するタンパク質等の物質の中から、特定したい疾病の発症や進行度に応じて濃度が変化するバイオマーカーを探索し、検討を重ねながら研究が進められる。しかし、この方法では膨大なコストと時間がかかり、目の前で苦しむ難病患者の元へ新薬を届けることは容易ではない。作用機序がわからない難病に対して、迅速に創薬研究を進められる技術が存在しない、という大きな課題に直面し思い悩んでいた時、aiwellのAIプロテオミクス技術と出会った。

      「この技術があれば、難病患者と健常者をタンパク質レベルで迅速に判別できる。過去に感じていた創薬までの時間削減や、コスト削減にも繋がると感じたんです」。まさに運命の出会いだった。

      己が人生をかけるに値する仕事を見極める

      そんな田畑さんも初めはベンチャー企業に入社することに対して抵抗感があったという。本当にこの会社は大丈夫なのか、将来はどうなっていくのだろうか、と不安に思うこともあった。しかし、実際にベンチャー企業で働いてみて、そんな考えも吹っ飛んだという。「ベンチャーには、大手企業では任されない個人の裁量の大きさや、自分自身を高められる場としての魅力を感じます。そして、例え会社が危うくなったとしても自分自身の技術や経験がしっかりしていれば乗り越えられると思える気概もつきました。仕事やその仲間は人生の多くをともにする大切な存在です。みんなで会社を成長させようという一体感を感じられることもベンチャーの魅力です」と田畑さんは語る。

      会社の描く世界観への共感が、新たなキャリアを切り拓く

      竹山政仁さん
      株式会社プランテックス企画室長・竹山政仁さん/東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。新卒で総合商社に入社し、金融事業や資源投資事業を管轄するコーポレート業務に従事した。同社在籍中にプランテックスと出会い、その技術とビジョンに魅力を感じて入社。現在は経営企画や栽培試験などを担当している。

      株式会社プランテックスは完全人工光型植物工場を手がけている会社だ。竹山さんは、技術力で世界の重要な食や農業の課題を解決するという同社のビジョンに強く共感し、2020年3月にプランテックスに入社した。その思いはどのようなものであったのだろうか。

      今後5年が面白いという直感を信じて

      竹山さんは、東京大学大学院の農学生命科学研究科で修士号を取得後、総合商社に入社してコーポレート部門に配属された。充実した仕事の日々を送りながらも、もともと最先端の科学技術の社会実装や事業化に興味があった竹山さんは、ものづくりや工学的なアプローチで植物生産を変えていこうとしているプランテックスという会社を知り興味を持ったという。植物工場は事業として成立するのかとの疑問も抱いていたが、知人の紹介でプランテックスと交流をもつなかで、同社が展開する密閉型の栽培装置は一見奇異だが、植物工場でしかできない植物生産を実現するうえでは極めて合理的な設計であると感じるようになった。また、環境再現性を高めた栽培装置は様々な植物科学を産業に応用するプラットフォームになる可能性があると感じた。

      植物工場は持続可能な食料生産を実現する手段として世界的な注目が集まっている。国内でも既に数百か所の工場が稼働しているなど社会実装段階にあると言えるが、高まる期待の反面、様々な技術的課題があることを知った。プランテックスは、環境制御性を高めた密閉型の栽培装置と、独自の植物成長管理システムによる栽培管理に特徴がある。竹山さんは同社の技術や植物工場について調査を続ける中で、産業としての植物工場は感覚値としてこれから5年程度が非常に面白い時期であり、プランテックスの技術による新しい植物工場を普及させるうえでの勝負時だと感じたという。今このタイミングで同社のような可能性を秘めた会社に加われる機会はなかなか無いという思いが湧きあがり、入社を決意したのだ。

      植物栽培装置のモニタで環境設定やカメラ画像の確認を行っている。
      植物栽培装置のモニタで環境設定やカメラ画像の確認を行っている。

      資金調達から栽培試験までを担う

      プランテックスの社員は14名、その多くはエンジニアが占める。竹山さんは前職の総合商社の経験を買われて、事業担当として入社した。主に事業計画作成や資金調達等の経営企画業務、助成金プロジェクトの推進、広報や採用など、開発業務以外のあらゆる業務を担っている。さらには、成長を促進する栽培条件探索や多品種栽培などの栽培試験にも携わっているというマルチぶりだ。

      人数が少ないためにさまざまな業務を任されている状況だというが、竹山さんの捉え方は非常にポジティブだ。「周りの社員がそれぞれの強みを存分に発揮できるように、また、開発に全力を注げるように、環境や体制を整えるのが自身の仕事。また、プランテックスの技術の価値を一層高めていくために栽培研究にも力を入れていきたい。」と力強く話してくれた。

      ビジョンに心底共感できる幸せ

      安定した総合商社と比べれば、不安定であろうベンチャーへの転職。多くの人が不安を抱く状況の中、竹山さんはどうやってその不安を払拭し決断に踏み切ることができたのだろうか。率直に尋ねてみると、「先が読めないからこそ自分たちが取り組む価値があるし、様々な課題を自社の強みで乗り越えていく、かき分けていくのが面白さだと思います。そこに情熱を感じられないと不安になるかもしれませんね」とむしろその不安定さを楽しんでいるようだった。プランテックスは新しい産業をつくる、食の常識を変えるなどのビジョンを描いており、竹山さんもそこに夢を感じているそうだ。

      「短期的な利益のみを追求するのではなく、本質的に価値があるものを生み出そうとしている。プランテックスの植物工場には新しい産業をつくり出していくポテンシャルがあるんです」と自社の魅力を話してくれた竹山さんは全力で植物工場の未来へ向かっている。(文・富田京子)

      牛尿が消臭液・土壌改良剤になる研究体制をゼロからつくる

      加藤勇太さん
      環境大善株式会社・加藤勇太さん/北見工業大学大学院バイオ環境化学科修士課程修了。2018年、環境大善株式会社に入社。入社以来、牛尿発酵液の品質管理体制、効果効能の研究に取り組む。2019年4月からは北見工業大学に再入学し博士号取得を目指している。

      「会社の規模は関係なく、自分が主体的に取り組める場所を探していました」と語るのは、環境大善株式会社に入社して3年目の加藤勇太さんだ。当社は2006年創業ではあるが、加藤さん以前に修士卒や理系出身者は誰一人入社したことがなく、経営陣にもいなかった。そのような場所へ飛び込むことで、加藤さんはどのような経験をしてきたのだろうか。

      「よし、加藤!なんでもやってもいいぞ!」、入社後当時の社長(現会長)から言われた一言が印象的だったという。1年目から本当にゼロからの研究所立ち上げがスタートした。加藤さんは、まず現状を理解するところから開始した。過去の研究実績を遡ってみると、様々な共同研究実績はあるようだった。しかし、全て単年で終わっていて、データが蓄積されていない状態にあった。

      また、製品の製造工程を確認すると、品質基準は現場の職人がニオイや色を見て判断するという定量化されていない基準となっていた。牛尿発酵液の効果効能を調査するためにも、データを蓄積し、品質にバラツキをなくしていくことが重要であることが見えてきたのだ。会社は加藤さんを、もともといた北見工業大学の研究室に派遣するという体制を整え、品質管理の研究が始まった。

      違いを受け入れる柔軟な社風

      安価で誰でも評価することができる品質管理方法をつくるために、同類の商材などを参考にしながら、研究を進めた。「たくさんの試行錯誤をする中で、私が考えた提案を会社は全て受け入れてくれました」と加藤さん。初めての研究人材だったにも関わらず、柔軟に対応してくれる環境がそこにあった。また、加藤さんは北見工業大学で研究するため、他の社員の方とは働き方が異なる。その中でも、研究協力を社内に投げかければ、皆快くサポートしてくれ、理解、支援を行う関係性を築くことができた。社内に助け合う文化が浸透していたおかげで、研究も推進し、半年間かけて品質管理の体制構築に成功したのだ。

      牛尿の新しい効果効能を見出していく

      現在、加藤さんは牛尿発酵液の効果効能のエビデンスの取得に向けて研究を進めている。さらに、令和2年度戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)の採択を受け、牛尿発酵液を微細藻類の増殖促進に活用することも検討している。新しい付加価値を見出すことで、公害の原因となっている牛尿がさまざまな分野へ展開されていくことが期待される。そして、牛尿を酪農家から買い取り、付加価値製品に変え、地球を健康にしていく循環を世界に広げていくことが加藤さんが目指す世界だ。「自分の専門分野だけでは、発想が限られてしまいます。だから、別分野の研究者ともディスカッションしながら、新しい付加価値を見出していきたいと考えています」と加藤さんは語る。(文・中島翔太)

      牛の尿から生まれた消臭剤「きえーる」
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