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      東北大学・北川尚美教授「“反応工学”から世の中の反応場を見つめ直す」

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      2020年7月、東北大学のキャンパス内に、イオン交換樹脂法を用いた米ぬか由来の機能成分の製造工場が完成した。この仕掛け人が、一つの原料から複数の機能性成分を製造するという反応プロセスの全体最適化を目指している、東北大学の北川氏だ。 ※本記事は2020年9月発行「研究応援」vol.19に掲載されたものです

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      スピーカー

      北川尚美 氏

      東北大学 工学研究科・工学部 化学工学専攻 プロセス要素工学講座 反応プロセス工学分野 教授

      伝統と変化を重ねる反応工学

      反応工学の源流は、イギリスの産業革命と同時に勃興した化学工学である。化学製品の工業化が進み、生産工程の大規模化と効率化が必要となる中で、「どのように作るか」を研究する方法論として化学工学が生まれた。その中でも、反応工学は反応器の選定や反応の最適条件について研究する学問である。

      北川氏は、反応工学を軸に、現状では廃棄物となっている未利用資源を価値の高い医薬品や食品、化学品に効率的に変換する反応プロセスを開発している。

      「私が研究を始めた2000年代は空前のバイオブームで、反応工学にバイオを取り入れようという機運がありました」

      研究室でも初めて植物細胞培養や藻類培養のテーマを立ち上げ、機能性成分を生産する研究を開始したという。「生物反応をどのように人の役に立たせるかをずっと考えてきた」と北川氏は振り返る。

      イオン交換樹脂を反応場として捉え直す

      次に北川氏が取り組んだのが、生体内で起きている化学反応系を人工的に生み出すバイオリアクターだ。当初は、生体触媒である酵素をイオン交換樹脂などの担体に固定化し、そこに原料を流して目的物質を変換する“固定化酵素”の手法を用いていた。甘味料ステビアや機能性脂質の合成を行っていた頃、ある学会で一つの着想を得たという。

      「固定化酵素の手法でバイオディーゼルを製造するという発表がありました。その発表を客観的に見たときに、『酵素を無くしてもできるのでは?』とひらめいたんです」

      反応工学の世界では、イオン交換樹脂自体に触媒活性があることは知られていた。実際に酵素抜きで反応を試したところ、「物凄い速さで反応が進み、あっという間にバイオディーゼルができた」という。結果的にこれが、イオン交換樹脂自体の触媒反応でバイオディーゼルを製造する、世界初の成功例となった。

      極めてシンプルなやり方にも関わらず、それまでなぜ誰も発見できなかったのだろうか。

      「当時、陰イオン交換樹脂ではエステル交換が進行しないという論文が出ていて、それを皆が信じていたのではないでしょうか」

      北川氏らは、イオン交換樹脂の使い方におそらく問題があるのだろうと考えた。陰イオン交換樹脂は特に耐熱性が60度と低いこと、市販時は水膨潤状態であるため油が内部に入りやすいよう前処理をする必要があること、固体触媒を用いるときは反応液を均相化する必要があること、これらは反応工学では基本であった。こうした反応工学者の視点を持って臨んだことが、新発見を引き寄せたのだ。

      マルチ生産システムの誕生

      イオン交換樹脂をある種の反応場として捉える。この発想は実はバイオディーゼル以外にも展開可能だった。東北大学の展示会で、偶然隣のブースになった農学部の先生から「米油を流してみてほしい」と相談を受けた。

      油をバイオディーゼルに変換する反応は、食品分野では、油の低沸点化や低粘性化を目的とし、例えば米油から機能性成分トコトリエノール(スーパービタミンE)を取り出す際の前処理に使われており、北川氏の技術で製造プロセスを革新できる可能性があった。ここで北川氏にはさらなるアイデアがあった。

      「高付加価値のビタミン類だけ作れば経済性は合いますが、無駄な廃棄物が多く出ます。一方、バイオディーゼル製造だけでは経済性が成り立たない。私はそれが許せなくて、これら全体を最適化できるマルチ生産システムを考えました」

      こうして北川氏は、イオン交換樹脂に原料である米由来の未利用油を流し、トコトリエノールを製造しながら、同時にバイオディーゼル製造ができる“マルチ生産システム”の構築に成功した。しかし、いくつもの企業にマルチ生産システムを提案したが、燃料製造と食品製造が産業として分離しているために、両方やりたいと望む企業は見つからなかった。

      ならば自分でやろうと考えた北川氏は、2018年6月にファイトケム・プロダクツ株式会社を起業した。折良く、研究室の卒業生でありプラントエンジニアリングの優れた技術者でもある加藤氏を代表取締役に迎えることもできた。

      「バイオマス利用技術で採算性が合うプロセスはこうすればできる、と具現化したい」との強い思いを持ち、未利用資源から様々な機能性成分の高効率回収や高付加価値化を行うことを目指している。

      ファイトケム・プロダクツ株式会社のメンバー(右端が代表取締役・加藤牧子氏)

      社会実装への布石は技術開発者がつくる

      今年7月、1時間20リットル規模で未利用油を処理し機能性成分を回収する実用装置が完成した。副生するバイオ燃料はひとまず自家発電に用いる予定だ。社会実装へ向けた歩みについて、北川氏は次のように話す。

      「皆、基礎技術をつくれば企業が形にしてくれると思っているが、それは間違いです。技術開発者自身が、研究室レベルから工場レベルへとスケールアップできるところまで持って行かないと、産業化につながらないんです」

      だからこそ、北川氏らは基礎研究からメカニズム解析、プロセス設計までのすべてを行う。今回完成した実用装置により、スケールアップが自社で実施できるようになったことで、より社会実装への弾みがつくだろう。今後、機能性物質から燃料製造、化成品に至るまで、世の中のあらゆる反応場に対して、北川氏は反応工学のメスを入れていくに違いない。

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