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      未来に駆け出す指針の見つけ方

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      いま挑戦していることは自分の目指す姿につながっているのか?進路を選ぶときの決断は本当にこれで良かったのか?未来を見据えた現在の決断には迷いがつきものです。未来に向けて自信をもって進んでいくためには、 自分の行動や選択の指針となるものが必要となります。たとえば、何としても達成したい目標や、大切にしたい価値観がそれにあたるでしょう。この特集では、自分の未来の指針を発見する方法を、キャリアに関する研究や実践にかかわってきた3名へのインタビューから見ていきます。この記事はincu・be vol.50に掲載したものです。バックナンバーはこちらから

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      不確実な人生の選択を主体的なものにする物語理論

      中川瑛さん
      株式会社ちえもの 代表取締役・中川瑛さん/北海道出身。幼い頃の知識への渇望を糧に、複数の奨学金をえて仏ストラスブール政治学院にて政治哲 学/倫理学を研究。「知的好奇心に優しい社会を創る」を理念に株式会社ちえものを創業。科学哲学をベースにしたコンサルティングやキャリアイベントなどを担う。現在は法政大学大学院政策創造研究科修士課程に在学し、研究者の意識変容について研究を続ける。

      物語理論は文学の中でも物語構造論に関係する考え方だ。世界に伝わる神話や英雄譚は無限にあるように 思えるが、分析してみると実は話の筋をいくつかの型に分類できる。逆に、その型を応用すれば面白いシナリオを作り出すことができるため、ハリウッド映画の シナリオライティングなどにも応用されてきた。これを現実の行動選択にも生かしてしまおうというのが中川さんのアイデアだ。

      キャリアの悩みは構造化できる

      中川さんが行動の選択に物語理論が使えること に気がついたのは、後輩たちの留学相談を受けたのがきっかけだ。自身が参加した留学助成プログラムに興味をもつ後輩たち1000 人近くから相談を受けたが、彼らの悩みはいつも同じだった。次の一歩をどう選ぶかということだ。中川さんによると、次の行動の選び方には2種類しかないという。これまでの延長線上の行動をとるか、理想の状態から逆算して行動を決定するかだ。昔から小説を書くのが好きだった中川さんは、理想の状態から次の行動を逆算する思考プロセスが、シナリオライティングの手法として応用されていた物語 理論そのものだということに気がついた。「何か目指す状態があって、そのために何をするのかを 決定するというのは、結末に向かってエピソードを組み立てていく物語の作り方と同じで、どちらも構造化できるんです」。

      過去と未来を物語ることで見える次の一歩

      物語理論を使って行動選択をする過程は、自分の経験を部品として物語を書くようなものだ。まず過去の経験を洗い出す。学歴や資格ではなく、 自分の心に残るエピソードを書き出そう。次に、未来の自分の姿を描く。「研究者になっている」だけでなく、どんな研究者になっているのか、職や立場についた先の姿まで思い描いてほしい。過去と未来を書き出せたら、そのエピソードを選び抜き、自分の人生の物語を作ってみよう。

      他者を動かし未来を拓く物語の力

      読者の中には「今やりたいことをとにかくやっている」という直感型でエネルギー溢れるタイプもいるだろう。そんな人には、前述のように逆算してどのような経験を積み重ねるかを決めるのは向いていないと感じられるかもしれない。しかし、奨学金獲得や就職活動など、自分のこれまで、そしてこれからの人生の歩みについて他者に説明する必要に迫られるとき、直感タイプの人は頭を抱えてしまう。実は、物語理論はそんなタイプの人にも役に立つ。運命に身を任せてきた生き方を物語として捉え直していくことで、あたかも初め から計画通りだったかのようなキャリアとして表現できるのだ。物語になれば、他者へも伝わりやすくなる。借り物ではない自分自身の物語を、相手や場面に合わせて魅力的に語ることができれ ば、周囲の人を動かし自分のやりたいことを実現しやすい環境を作る力になるのだ。

      人生の伏線を張る

      物語理論を使って自分の人生について考えるときは「柔軟性を意識しておくこと」を中川さんは推奨している。自分の内面的な目標を達成する上で、それを満たす職や環境などの外的目標は1つだけではない。そこで、現在のストーリーからは 一見はずれるようなことでも、将来の「伏線」となる経験をひっそりと戦略的に積んでおいてよいのだ。その伏線は異分野の研究者と友達になることかもしれないし、何かのイベントを開催すること、はたまた一冊の本に出会うことかもしれない。「博士論文の研究をするときは、この実験やこのテーマがうまくいかなかったときのために、とさまざまな実験やテーマを仕込んでおくと思います。自分の人生の中でどのような経験を積むのかを選び取っていくときもそれと同じなのです」と自身も研究者である中川さんは語る。

      研究者の人生設計は、自身でコントロールしき れない事象に左右されることも多いはずだ。物語理論を活用すれば、不確定な状態の中でも自分の選択をより主体的なものに変えられる。だからこそ、次の一歩に自信を持って歩んでいくためのガイドとなるのではないだろうか。(文・重永 美由希)

      最高のキャリアの描き方 トビタテ! 留学 JAPAN 生と物語理論/株式会社ちえもの代表取締役 中川 瑛 著/中央経済社
      中川さんのこれまでのノウハウが書籍でまとめられています。物語理論を 使って自分の人生の物語を描く方法から、それを面接などで活かす方法ま で丁寧に説明してあります。ぜひ読んでみてください。(最高のキャリアの描き方 トビタテ! 留学 JAPAN 生と物語理論/株式会社ちえもの代表取締役 中川 瑛 著/中央経済社)

      研究経験の細分化から、自分の指針を再構築する

      野見山玲子さん
      株式会社テラス 代表・野見山玲子さん/東京都出身。薬剤師、MBA。国立がん研究センターにて研究者としてキャリアをスタートし、外資医薬系商社にて最高総括責任者、大手外資系製薬企業メルク、アラガン日本支社にて、組織と製品の最高品質責任者を最年少で歴任。2017年、テントゥーフォー株式会社の社長に就任。2019年に株式会社テラスを立ち上げ、ライフイベントによらずキャリアもライフも大事に生きる個人・企業の成長を支援している。

      「研究は面白い!けれども、このまま研究をやり続けてよいのだろうか…」。自分の未来を想像してみるとその姿はぼんやりしていて心もとない。そこで、自身も研究経験を持ち、現在はビジネスパーソンを中心にキャリア設計の支援をしている野見山さんに、研究を続けたい研究者が自分の目標をクリアに見据えるためのヒントを聞いた。

      原因は「研究」という言葉にあり

      研究で実現したいことや目指す研究者像はあるが、それが具体的ではないことに不安を覚える人は多いのではないだろうか。その理由を、野見山さんは次のように分析する。「研究という言葉で、 自分の実現したいことや夢などの『目的』をひとくくりにしていることが、目指す未来像が具体的にしにくい原因です」。実際、大学院生や若手研究者が自分のやりたいことを尋ねられると、「研究を続けたい」「研究経験を活かしたい」という答えが多い。その想いの背景には実は、専門性を突き詰める中で得られた独自の視点や、研究の中で感じるやりがいなど、さまざまな要素が含まれている。これらを「研究」という言葉でひとくくりにしたとたんに、自らの詳細な実現したいことや夢、目的が見えなくなってしまう。

      最初の一歩は経験の細分化

      そこでまずは、これまでの研究経験を細分化してみることを野見山さんは提案する。たとえば、 大学院進学・研究室選びのときに大切にしたことや、今までに取り組んだ研究プロジェクトで最もやりがいを感じた瞬間などを思い出してみよう。このときに、自分がどのように感じたかといった 主観的な価値を見る視点だけではなく、社会や周りの人にどのような価値を届けられたか、客観的に実現した点の2つの視点から分析することがポイントだ。研究で開発したツールが他の人の研究を前に進めた、研究室の備品管理がしやすいように研究室に働きかけ、新しい運用方法を提案したといったことなどだ。このように自分の研究経験を2つの視点からより細かく見ていくことで、自 分の内側にある価値観や、外側に向けて発揮できる力をより明確に見出すことができるのだ。さらに、幼い頃のできごとや趣味など、研究以外の原体験も一緒に振り返ることで、自分の変わらないコアとなる価値観、強み、弱みの理解をさらに進めることができるだろう。

      大つかみに捉えている「経験」というものをより細かい能力や、価値観へと細分化する。いくつかの経験を細分化したら、その中から共通する強みやこれだけは大切にしたいとい う価値観や信念を組み合わせる(再構築)。再構築の際には組み替えるだけではなく、最上位の要素以外は捨てることがポイントだ。

      「手放す勇気」で新しい自分を再構築する

      細分化によって自分の価値観や強みを洗い出したら、その中から絶対に譲れないものを選び、組み合わせるのが次のステップだ。この「再構築」について野見山さんは、自身の例を教えてくれた。野見山さんは自身の経験のうち、医療系の家系で幼いころから遺伝病を持つ患者さんたちと関わる中で、病気を予防できるようにしたいという想い、「研究成果を社会につなぐ」という志、異文化、異業種など関係なく多様な人と協業できる力の3つの要素を特に重要なものとして選び出した。これらを再構築した結果、外資医薬系商社という進路が見えた。「このときに、細分化で出した全部の要素を使わずに、いくつかの要素を手放すことがポイントです」と野見山さんは指摘する。 一途に研究を続け、年月をかけて実績を積んできた研究者にとっては、培った専門性すべてが思い入れのあるものだろう。しかし、本当に重要なもの以外を、一度勇気を出して手放して考えることで、自分の指針が見えやすくなるはずだ。「手放して考えてもなくなるわけではないので、怖がらず安心してやってみてほしいと思います」。

      研究をするように過去と未来を見る

      自分の指針が見えれば、そこから先は実現したい未来の仮説を立て、達成するためのステップを設計する。その分野について調べたり、実際に挑戦してみることで仮説を検証し、その結果を考察しながら計画を改善していくところは、研究者の得意とするところだろう。「将来の目標を立てる というと堅苦しく考えてしまいがちですが、実はそのために必要なプロセスは研究者にとって身近な作業だと思います」と野見山さんは話す。漠然と未来が見えないと感じていたあなたも、一度 立ち止まって自分と向き合うことで、未来で活躍 する自分の姿がより鮮明に描けるようになるはずだ。 (文・伊達山 泉)

      変化する自分を楽しみ、ロールモデル不在の時代を駆ける

      環野 真理子
      株式会社リバネス 人材開発事業部 部長 キャリアコンサルタント・環野真理子/筑波大学大学院生命環境科学研究科生命共存科学専攻修了 修士(理学)。専門は地球生物化学。リバネスでは一貫して人材開発に関わる。生涯の主体的なキャリア開発と組織の成長をつなげていきたいという想いで、キャリアコンサルタント(国家資格)を取得。

      本誌『incu・be』の立ち上げ人の1人でもある環野は、リバネス入社以来、人材開発部門で、10年以上にわたり研究者のキャリア、生き様に立ち会ってきた。キャリアコンサルタントの資格も有する研究者のキャリアのプロとしての視点から、ここでは特に若手研究者の立場にフォーカスした指針づくりの考え方を伝える。

      研究者にとっても多様なキャリアが描ける時代

      「論文のインパクトファクターを積み上げ、トップレベルの研究機関や有名な大企業に入ることが、研究キャリアとしての成功である」という考え方は、もはや古くなった。実際、『incu・be』 でも、起業やURAなど、研究職にかかわらず研究経験を起点としてさまざまな活躍をする人の事例が多く見られる。多様な生き方や価値観が尊重される時代では、研究職など、仕事の枠にとらわれず、自らの生き方を探していくことで、仕事や 活躍の場を自ら生むことができるのだ。「研究者は常に、人とは違う道を歩むこと、ゼロから何かを生み出すのが得意なはず。自分のキャリアも自ら開拓するつもりで考えると良いと思います」と、環野は語る。

      新たな挑戦と振り返りを通し、指針をつくる

      研究者のロールモデルが存在しない時代に、研究者は自分の生き方をどのように決めていけばよいのだろうか。もし今、それがわからないのであれば、自分の興味のある世界で新しいことにまずは挑戦してみるのがよいだろう。企業インターンやボランティアなどなんでもよい。そのとき感じた自分のこだわりや社会の課題、ビジネスの仕組みなどを実感できるはずであり、それを振り返ることで自分にとって何が大事なのかが浮き彫りになる。それがいずれは自分の生き方を決める指針になっていく。「卒業までの数年より、その後の人生の方が圧倒的に長い。たった数年の専門性だけにしがみつかず、いろんなことをやってみて、自分の変化を楽しんでほしい」と、環野はエールを送る。 (文・内田 早紀)

      未来の指針は自分の経験から見いだせる

      心に残るエピソードを素材として自分のストーリーを描く中川さんの物語理論、これまでのできごとを細分化して自分の姿を再構築する野見山さんの技法、環野が提案する環境に応じて変わる自分の姿から独自の道を見出す姿勢。 3名のインタビューからは、未来の指針はこれまでの経験を材料にして形作られることが見えてきました。

      「キャリア」という言葉の由来は、馬車や荷車の車輪の跡にあるといわれます。 これまでの自分の足跡が、次の岐路や難所に直面したときの道標となるのです。

      これからの指針を得るためには、前を見据えるだけでなく、自分のこれまでを一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

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