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      教育

      見えない宇宙とそれを見ようとする人たち

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      今年4月にブラックホールが世界で初めて電波望遠鏡によって撮影されました。こうした「宇宙を見る挑戦」は、研究者だけにしか与えられないものでしょうか。1937年に世界初のパラボラ式電波望遠鏡を作ったグロート・リーバーは、自宅の庭に観測装置を自作し、天の川銀河の電波の検出に成功しました。高性能なスマートフォンなど、私たちが簡単に手に入れることができるものを使い、リーバーの望遠鏡のように工夫次第で見えない宇宙を観測できることもあるのではないでしょうか。本特集では、「宇宙の観測装置」をテーマにものづくりによって宇宙を見ようとする挑戦を紹介します。 ※本記事は2019年12月発行「教育応援」vol.44に掲載されたものです

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      私たちの暮らしと宇宙を繋ぐ、「見えないもの」

      宇宙の現象を観測する方法として、宇宙からやってくる可視光以外の様々な電磁波や粒子が利用されてきました。そして次第に研究が進むにつれ、その現象による私たちの暮らしへの影響がわかることもあります。暮らしと関わる現象は、予測や把握の正確さによって影響の度合いも異なります。今回は電波、赤外線といったテーマにおいて、私たちの暮らしとの関係やその観測装置開発などの研究を紹介します。

      太陽観測から知る宇宙天気予報

      ブラックホールの撮影に使われた電波望遠鏡で観測できるものの一つとして、私たちにもっとも近い存在の太陽があります。太陽はその活動から強力な電磁波を出しており、時に「フレア」という現象が起きます。フレアが起きると、太陽から噴き出した電気を帯びたガスの塊が地球に飛来し、衝突とともに地球に磁気嵐を引き起こします。それは結果として、通信障害や飛行機の飛行などへ大きな影響を与えることになります。

      また、高高度においての定期的な飛行や国際宇宙ステーション(ISS)等の軌道上での長期滞在においては、太陽フレアに伴って放出された高エネルギーの粒子による被ばく量の蓄積は人体への負担が大きく、乗員や宇宙飛行士の健康管理の観点でも太陽の活動を把握、予測することが重要になります。この太陽フレアの観測に取り組むのが、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の久保勇樹さんの研究チームです。

      国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)電磁波研究所 宇宙環境研究室 研究マネージャー 久保勇樹さん/電磁波研究など情報通信分野を専門とする我が国唯一の国立研究開発法人で、産学官連携や事業振興等も行っています。宇宙天気予報を配信するほか、日本標準時(JST)を決定・維持・供給しています。

      太陽フレアが起こる前後には、低周波から高周波まで、広帯域の電波が発生します。NICTでは鹿児島県指宿市で太陽観測の電波望遠鏡を運用し、70MHzから9GHzまでの周波数の電波を約4万点でサンプリングし、8ミリ秒おきにデータを記録することで太陽フレアの観測を行っています。こうした観測のもと作られる宇宙天気予報のデータは、2019年11月7日から、国際民間航空機関(ICAO)という民間航空機の運行管理機関を通して航空各機関に提供されています。

      さらに、航空機は衛星測位(GNSS)で現在位置の特定をしており、いずれはGNSSにより離発着までの自動化を実現しようとしています。しかし、GNSSは電波を使うため、太陽活動によって誤差が生じると正確な位置を把握できなくなります。宇宙天気予報が提供されることで、こうした未来の技術の実現にも繋がることになります。

      鹿児島県のNICT太陽電波望遠鏡(国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)提供)

      赤外線で地球温暖化の原因物質を調べる

      宇宙を通して、地球自体のことがわかることもあります。あらゆる気体は、特定の波長の光を吸収する性質「吸収線」を持っています。これを利用すると、大気中の温室効果ガスを検出することができます。CO2やメタンは、赤外域に吸収線を持っており、国立研究開発法人国立環境研究所の松永恒雄さんは、日本が開発した地球観測衛星GOSATを用いて、地球上の温暖効果ガスの分布を観測しています。

      国立研究開発法人国立環境研究所(NIES) 地球環境研究センター センター長 松永恒雄さん/水質や地球温暖化などの地球環境問題や環境リスク評価等への研究に取り組む国立研究開発法人。地球環境モニタリングデータベース等を数多く公開しています。

      GOSATは、地上において直径10kmの円で囲まれるエリアをひとつの単位として、温室効果ガスの濃度観測が可能なほど高精度だといいます。これにより温室効果ガスの発生地点がより正確に特定でき、パリ協定の達成に向けた公平なジャッジができるようになるのです。

      GOSATのデータを解析している機関は世界で10拠点ほどありますが、その中で日本は専用のスーパーコンピュータを所有し、複数の研究グループが解析精度やスピードを競っています。GOSATでは10kmほどの分解能の観測を行っていましたが、将来的には1km単位の分解能を目指しており、例えば発電所などの建造物単位での温室効果ガス排出箇所の特定が可能になるとされています。

      GOSAT CG画像(JAXA提供)

      「裏庭天文台」の可能性

      宇宙線量や地球温暖化ガスなどの目に見えない現象の観測について紹介しましたが、そこでは「太陽から発生する電波の強さを測る」「温室効果ガスに吸収された赤外線を見る」という観測が行われ、アンテナ、赤外線フィルタという部品がそれらの観測対象を検知します。

      実は、ホームセンターなどで売っている衛星放送用アンテナ、増幅器、ダイオードを使った検波器に電圧計を組み合わせることで、簡単な電波望遠鏡の作成が可能です。これにより太陽活動の一部は観測可能であり、「単体でNICTが行うような宇宙天気予報を作ることは難しいですが、多数組み合わせることで、フレアの発生位置の特定などに貢献でき宇宙天気予報にも寄与する可能性はある」と久保さんも話します。

      最先端の研究を調べながら、自分たちでもそうした研究に挑戦することを考えてみてください。グロート・リーバーが実現したように「自宅の庭で天文の発見」がみなさんにもできるかも知れません。

      <中高生が取り組む、身近なもので天体観測~KIMOTSUKI SPACE CAMP~>

      2019年11月2日から4日の3日間、内之浦宇宙空間観測所のある鹿児島県肝付町では、同町主催のKIMOTSUKI SPACECAMP 2019が実施されました。3回目となる今年は「電波観測」がテーマです。日本中から15人の宇宙好きな中高生が集まり、衛星放送アンテナを使用した電波望遠鏡の製作から新規プロジェクトの立案まで行い、キャンプ終了後にも新たな電波望遠鏡の観測プロジェクトを立ち上げています。

      Day1

      ・検出回路製作

      アンテナで受け取った電波を計測できる電気信号にするために、ダイオードを使った検波回路を製作しました。

      ・プログラミング

      検出回路で得られた電圧を記録するために、マイコンによるデータロガーを製作しました。

      ・望遠鏡組み立て

      太陽がアンテナの前を通り過ぎる時の強度変化を計測するために、赤道儀を製作しました。

      Day2

      ・射場での観測

      製作した電波望遠鏡による観測風景。まずはアンテナを太陽に向けて受信を確認。西側に傾けて太陽を待ち伏せしました。

      ・太陽の通過を待つ

      40分ほど放置し、太陽がアンテナの目の前を通過する間の電波を観測、記録しました。

      ・太陽温度を計算

      日周運動による電波強度変化のデータが得られます。ここから、太陽の温度を計算しました。

      参加者からの感想

      ・本格的な宇宙開発は初めてなので、こんな自分たちでできるんだ、と思いました。発表したプロジェクトも本気でやりたい。人間関係やプロフェッショナルの言葉は本当に大事だと思いました。(中学3年生)

      ・ここに来るまでパソコンや半田付けは何もできない状態でした。数式なども意味がわからない状態だったけれど、作っているうちに理解できることは面白いことだと思ったので、帰ってからもこういうことに挑戦したいです。(中学3年生)

      <column 高専で取り組む環境放射線学習>

      国際宇宙ステーション(ISS)の実験棟曝露部にあるCALET

      茨城工業高等専門学校の三宅晶子さんは、国際宇宙ステーションの宇宙線観測装置(CALET:CALorimetric Electron Telescope)を使い、エネルギーの低い宇宙線の観測データを解析しています。エネルギーの低い宇宙線は、太陽の活動に合わせて地球に降り注ぐ量が変化します。宇宙線は人工衛星などに搭載された精密機器を故障させたり、宇宙飛行士や航空機高度で働く乗務員にとっては放射線被ばくの要因にもなるため、その量がどれだけ変動するかを知ることはとても大切です。

      茨城工業高等専門学校 国際創造工学科 准教授 三宅晶子さん/茨城県ひたちなか市にある同校では、機械・制御系、電気・電子系、情報系、化学・生物・環境系の4つの専門工学分野でグローバル・エンジニアの教育に取り組んでいます。

      三宅さんは宇宙線などの放射線計測を、学生にとって更に身近にするために環境放射線に対する学習にも取り組みます。シンチレータという放射線が入ると発光する物質と、検出用のマイコン等による小型な放射線検出装置を使用しています。

      この装置は雷雲や雷から発せられるガンマ線を観測するために京都大学や(株)TAC社などで開発された検出器ですが、家屋の屋根などに設置して、空気中のチリなどに含まれる放射性元素から発せられるガンマ線も測定しています。

      環境放射線学習に使われる装置

      <詳しく調べて、学校で取り組んでみましょう!>

      Mission1 衛星放送アンテナによる太陽電波観測

      ホームセンター等で売っている衛星放送用アンテナ、増幅器、ダイオードを使った検波器に電圧計を組み合わせることで、簡易的な電波望遠鏡の作成が可能です。これにより太陽の温度を計算することができ、太陽活動の一部が観測可能です。

      Mission2 赤外線フィルタや分光器を使った、温暖化ガスの検出

      太陽を追尾可能な望遠鏡がある場合には、赤外線フィルタや分光器を組み合わせて赤外線の吸収線を検出し、GOSATのように大気中のCO2やメタンの吸収線を見ることが可能です(望遠鏡で太陽を直接見る行為は失明の恐れがありますので、絶対にしないでください)。

      <実験教室「DIY電波望遠鏡」の実施も可能です!>

      肝付町で行ったような電波望遠鏡の製作・観測教室を学校で取り組むことも可能です。ものづくり、プログラミング、自然科学を相互的に学習することができ、部活動や探究活動のひとつとして実施することが可能です。規模感、構成などご相談ください。

      お問い合わせ先

      株式会社リバネス教育開発事業部(担当:木村)

      T E L:03-5227-4198

      MAIL:ed@lnest.jp

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