L ID

      人材

      「『組織と人を変え続ける』理念浸透の取り組み」インテグリカルチャー/リバネス実験教室

      サムネイル

      昨今、企業には社会課題を解決する役割が求められています。それにともない、企業自身の目指す世界観を示す理念の価値が見直されています。一方で、壮大な理念を掲げても言葉だけが一人歩きし、組織に浸透せず行動に繋がらないという課題も多くの組織で挙げられています。社員に愛される普遍的な理念を作り、社員が自分事にするためにはどのように向き合って行けばよいのでしょうか。本記事では、普遍的でありながら組織と人に変化を起こすための理念について、事例を通して論じます。 ※本記事は2020年6月発行「人材応援」vol.13に掲載されたものです

      タグ

      (1)相互理解から生まれる組織としての個性/インテグリカルチャー

      インテグリカルチャー株式会社 取締役CTO・川島一公氏
      インテグリカルチャー株式会社 取締役CTO・川島一公氏/2012年、広島大学にてPh.D (農学)を取得。Baylor College of Medicineフェロー、JSPS( DC1,PD)フェローを経て、インテグリカルチャーを共同創業。日本生殖内分泌学会 学術奨励賞、日本受精着床学会 世界体外受精会議記念賞、日本繁殖生物学会 学会発表賞 口頭発表部門を受賞。

      インテグリカルチャー株式会社は、細胞培養にかかるコストを大幅にカット可能な新技術を開発するベンチャー企業である。組織として活動を進める軸となる言葉をつくる過程で、創業メンバーである川島一公氏は、メンバーと自社について思いがけない変化と発見が得られたという。

      研究開発が進む一方で、共有されていなかった想い

      同社は、細胞培養による人工肉をつくり、近い将来に人類が直面するタンパク源不足の課題に挑戦するために、川島氏と代表の羽生氏らが共同創業した会社だ。当時大学の研究員だった川島氏は、アカデミアに限らない生命科学の可能性を見据え、ビジネスへの展開を考えていた。

      創業当初は川島氏と同様に、今までにないものを創りたい願望をそれぞれ強くもつメンバーが集い、羽生氏が目指す「宇宙で人工肉をつくる」という壮大なアイデアに共感を抱き、培養システムの開発を進めていった。しかし、皆の情熱が人工肉を実現する目の前の培養システムの開発に注がれ、それ以外の可能性を議論したり、各メンバーが抱く想いを共有したりする機会は少なかった。

      設立から2年が経った夏、支援を受けていたファンドから「組織としての軸がなく、メンバーの考えがばらばらである。メンバーで合宿をして方針を議論してみてはどうか」との提案が寄せられた。当時、メンバー同士が本音でフラットに議論できる関係性であったことから、川島氏はあまり必要性を感じなかったという。しかし、合宿の前後で、川島氏の考えと組織の状態は、大きく変わることになった。

      相互理解を深めた結果、組織を表す言葉が生まれた

      合宿では、普段議論する人工肉の研究開発や会社の運営についてではなく、メンバーがそれぞれのアイデアや夢を語りあい、混ぜ合わせることで、インテグリカルチャーとして目指す未来を言葉にする議論が行われた。

      この時間で、これまで多忙も手伝って実務的な話に終始していたことに川島氏は気づかされた。合宿というまとまった時間で徹底的に話し合ってはじめて、皆の根底にある想いや夢を深く理解することができたのだ。

      さらに自身も、これまで伝えたつもりになっていたやりたいことを、メンバー全員に理解してもらえた実感が初めて湧いたという。相互理解を深め、全員の夢の重なりを議論した合宿が終わる頃には、2つの四字熟語が生まれていた。

      「万衆満滋」「文化創生」

      人工肉というアプローチに限らず、世界の食と健康を豊かにする新たな文化を創る。インテグリカルチャーという組織が実現したい未来であり、自分たちがつくる世界観が凝縮された言葉だ。

      「今思うと、目先の研究開発に夢中になった個人が集まり、組織として何のために社会に存在するかが本当には定められていなかった、まるでサークル活動のような会社でした」と、川島氏は合宿の前までの様子を振り返る。メンバー同士の相互理解の結果、組織を表現する言葉が初めて生まれたのだ。

      (文・江川伊織)

      未来像を示す言葉が、組織の個性となる

      共有する未来像が言葉になったことで、経営者としての川島氏の意思決定にも変化が生まれた。開発が進むための選択をしていた一研究者としての判断軸から、目指す未来の実現のための選択をするようになったのだ。川島氏が組織を考える経営者へと成長できた大きな出来事だった。

      合宿で生まれた2つの四字熟語は、あくまでも現在のメンバーの夢の重なりだ。正式な理念として掲げているものではないが、多様な価値観をもつメンバーにとって自分たちがこの組織を使って生きる拠り所ができたことが組織としての第一歩といえるだろう。

      培養技術や人工肉を技術的な特徴に掲げる企業は他にもあるが、この拠り所はインテグリカルチャーならではのものである。創業まもないチームが理念をつくる過程では、チームの相互理解が生まれることで、想いをもつ個人の集まりから個性をもつ組織が形作られていくのだろう。

      (2)自分自身と次世代への約束が、組織を豊かに進化させていく/リバネスの実験教室

      リバネス実験教室

      理念浸透の機会や理念を考えるプロセスをどのように社員に作るのか。一般的には研修やワークショップを行うなど、各社様々な試行錯誤がある。株式会社リバネスでは、実験教室の開発を通じて企業の理念について子供に伝える実践の場から、その機会を作っている。

      目指している世界を次世代に伝える実験教室を作る

      なぜ実験教室が理念を考える機会に繋がるのか。教室では、学校の先生ではない社会人が突然現れ、子供の心を掴んで一緒に楽しむ空間を作る必要がある。

      「自分たちの会社は何者なのか」「なぜここで実験教室をするのか」を伝え、意欲的に参加してもらうために、「モーターの会社である」「車を作っている」ということは簡単であるが、その組織らしさが伝わらず、心に残らない。社名の有名さなどは子供たちには通用しない。一番子供たちの心に残るのは、「どのような思いで何を目指して仕事をしている企業か」という「理念」なのだ。

      また、共通の実験体験はありつつ、伝えたいゴールはチームごとで設計し、オリジナルの講義をつくっていく。この時も、各チームが自社の世界観や価値観を基盤にして考える。自分たちが普段の生活で使っている製品の背景には確固たる未来を描いて、卓越した技術を生み出している人がいることに、子供たちは驚き、感動する。つまり理念とそれを目指す人を伝えようとすることが大事だと言える。

      チームの数だけ理念の捉え方があり、伝え方がある

      伝えたいことは理念そのものを眺めていても導き出される訳ではない。自分たちが一番大事にしている価値観や誇り、普段先輩や同僚と語っている自社らしさ、など自社の様々な側面について洗い出していくことで、自分たちの一番伝えたいことが浮き彫りになってくるのだ。

      例えば、あるモーター企業の実験教室で、あるチームは、自社技術が世界の「動き」を支えていることを伝えるために、どんな動きを支えているのかがわかるワークを作った。他のチームでは、「設計と製造が一体となったものづくり」を行っていることを伝えるために設計と製造の役割を体験してもらう位置付けで実験を行った。

      チームの数だけ理念の捉え方があり、伝え方がある。それは、組織にとっても、社員にとっても、理念の認識に深みを与えることに繋がる。

      子供に自社を伝えた社員は自分なりのビジョンをもつ

      実験教室を作る過程では社員の面白い変化が見られる。実験教室前後で参加した社員にアンケートをとったところ、「自分の仕事の好きなところ、人に誇れるところは何か」という問いに対して、事前では「収益計算や原価算出をしている」と回答した人が、事後に「色々な情報やデー タ提供をしながら人の役にたつこと」と回答するなど、「仕事の内容」から「自分の仕事が他の人に与える価値」へと視野が広がっているのである。

      そのほかにも、「自分がやっている仕事の説明だけでなく、なぜしているのか、まで話すことができた」など、仕事を深く捉えることの重要性を認識する社員の回答もあった。福利厚生や働きやすさなどで働く場所を選んでくる人も多い中、実験教室は、自分がこの会社で何のために働き、なにを目指しているのかについて改めて考え、子供たちと自分たちにその世界の実現を約束する場といえる。

      理念を自分たちの言葉で表現し、自分自身や次世代への約束をした人のリーダーシップ、そしてそれぞれが捉えた理念が、組織を豊かにし、進化させる支えとなっていくに違いない。

      (文・環野真理子)

      <コラム・理念を改めて考える>

      それぞれの企業にとって理念とは?

      経営の柱を作る言葉には、「経営理念」、「企業理念」、「ビジョン、ミッション、バリュー」など様々な解釈や種類があり、使い分け方がある。「経営理念」や「企業理念」はいずれも、「経営者が大切にしている考え方」や「企業として大事にしている考え方」を指すことが多い。

      その中には存在意義や、価値観、目指している姿など、企業によって様々な指針が含まれている。「理念」が「ビジョン(将来像)、ミッション(使命)、バリュー(価値)」と同義の場合もあれば、3つの上位概念として存在している企業もあるなど、使い方も様々である。本記事では、「企業が大事にしている価値観や世界観・将来像」の意味で理念について考える。

      「知っている」から行動に移していく

      各社は社内に理念を浸透させていくための取り組みとしてどのようなことを行っているのだろうか。『「経営理念」等の浸透・共有のために行っている取り組み(上位10件)別に見た浸透状況』の調査では、ホームページやパンフレットへの掲載の事例がもっとも多い結果となっている一方、それらより新入社員や階層別の社員教育における理念教育を行う企業の方が浸透度が高い結果となっている。

      日常業務と企業理念のつながりを意識し、「知っている」というレベルから、実践へと移していくことが必要であると言えるだろう。

      経営理念の策定・浸透に関するアンケート
      出典:経営理念の策定・浸透に関するアンケート 労務行政研究所/アンケート実施主:一般財団法人労務行政研究所/対象:『労政時報』定期購読者向けサイト「WEB 労政時報」の登録者から抽出した本社に勤務する人事労務・総務担当者の計3871人(1社1名)
      この記事をブックマーク

      登場人物をフォロー


      著者


      関連記事

      リバネスIDにユーザー登録する(無料)

      ブックマーク、フォロー、新着コンテンツのお知らせなどをご利用いただけます

      リバネスIDは研究者の知識製造を加速させるためのプラットフォームです( →リバネスIDとは