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      リバネス研究費第50回記念・特別対談/一橋大学・七丈直弘教授×リバネス髙橋修一郎「キャリアの多様性と不確実性の未来を楽しむ」

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      キャリアの多様性と不確実性の未来を楽しむ変化の激しい時代に、研究者が活躍を続けるためには何が必要だろうか。大学や科学技術・学術政策研究所等で産学連携や科学技術動向の最前線で活躍してきた一橋大学大学院経営管理研究科の七丈直弘教授と、リバネス研究費の創設者であるリバネスの髙橋修一郎が、これからの研究者のキャリアのあり方や、産業界と連携するための思考について語り合った。 ※本記事は2020年9月発行「研究応援」vol.19に掲載されたものです

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      スピーカー

      七丈直弘 氏

      一橋大学 経営管理研究科経営管理専攻 教授
      東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)。東京大学大学院情報学環准教授、早稲田大学高等研究所准教授、文部科学省科学技術・学術政策研究所上席研究官、東京工科大学教授を経て、2020年より一橋大学教授。専門分野は計算材料科学、科学技術政策、技術経営。

      髙橋修一郎

      株式会社リバネス 代表取締役社長COO
      東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、博士(生命科学)。設立時からリバネスに参画。大学院修了後は東京大学教員として研究活動を続ける一方でリバネスの研究所を立ち上げ、研究開発事業の基盤を構築。独自の研究助成「リバネス研究費」や未活用研究アイデアのデータベース「L-RAD」のビジネスモデルを考案し、産業界・アカデミア・教育界を巻き込んだプロジェクトを数多く仕掛ける。

      一定の方向性が自由な発想を支える

      髙橋 リバネス研究費の立ち上げ当時、若手の研究者は、アイデア段階で予算を獲得して研究する機会が限られていました。もっと自由な発想で、チャレンジしていけるような機会を提供したいと思いスタートしました。

      七丈 実績の少ない若手が、自由に研究を行うようになるまで本当に多くの苦難があります。早い段階で、財源の制約を受けない自由な研究ができるようしたいですね。このように考えると、リバネス研究費は学生も採択されるというのが素晴らしいです。

      髙橋 80 社の企業と研究費を実施し、産業界へ一歩踏み出してチャレンジする研究費採択者がのべ305名、とプラットフォームを拡大してきました。採択者のその後をインタビューしてみると、企業が抱える現場の課題や社会実装に向けたミッションなどを肌で感じることができたことが、視野の拡大や研究者としての成長に繋がっていると感じている人が多かった。

      七丈 産業界とつながることで、研究内容にゆるやかな方向性が得られることは非常に価値があると思います。良い研究を牽引するのは自由な発想や好奇心だけでなく、社会からそれが求められているんだ、社会を変えてやるんだという、いわば「ミッション」です。若手の皆さんに、研究室での活動にとどまらずに、社会実装してやろう、という活動の変化があると良いですね。

      髙橋 𠮷野家さんと取り組んだ研究費は、まさに方向性が示された事例でした。「五感と感性や行動の関連性を追求する研究」というお題に対して「音響環境における周波数特徴と嗜好性の関係」や、「五感情報提示により食品の情報的価値を向上させる食体験拡張手法の研究」というテーマが採択され、企業だけでは想像できなかった研究が推進されました。

      七丈 企業側にはある程度の自由は容認してもらいつつ、ミッションを共有して進めていく一定の方向性と自由な発想の両方のバランスが大切になってくると思います。

      髙橋 ベクトルを一つ持つということですね。完全に自由だとなかなか決められないので、確かにある程度制限があった方が熱が入るでしょう。その中で武器を拾って戦えることが自分の強みにもなっていくのではないでしょうか。

      仮説の価値を最大化する

      髙橋 2009 年より合計50 回の研究費を設置する中で、各企業がそれぞれのものさし・方向性で公募を行ってきた結果、一つのテーマに対して、仮説の多様化が年々進んできていることを実感しています。それに伴い、企業側も知財やビジネスモデルというよりも、研究者×企業で思いついた仮説を求めるようになっています。

      七丈 私も新しい仕事でミッションが提示されたときに、自分の専門性の切り口でアイデアを加えて面白くできないか、自分なりに料理することを楽しんでいます。例えば、早稲田大学から科学技術・学術政策研究所に異動し、科学技術動向の調査研究に取り組んだ時には、計量書誌学や数理的視点を入れるなど、別の視点から思考を巡らせました。

      髙橋 一方で、国内の競争的資金は仮説段階・アイデア段階のもので獲得することは難しく、新しいテーマを立ち上げたくても予算の都合で最初の一歩を踏み出すことができない。例えば、2019 年にフォーカスシステムズ賞で採択された聖路加国際大学の米岡氏は、衛星データを用いた機械学習による新しい疾病地図という、全く新しいテーマを提案し、最初の一歩を踏み出しました。

      七丈 海外では、ファンディングエージェンシーからも一定の割合であれば自由な研究が認められると言います。こういった余裕がない日本ではまだなかなか厳しいですね。

      髙橋 研究者側が仮説を発信して産業界から予算を獲得する。若手と民間とが一緒になって仮説を磨いて次の一歩へ進んでいく形を、リバネス研究費では継続していきたいと考えています。

      ニューノーマルに対応した研究者の経営戦略とは

      七丈 2020 年の現在、新型コロナウイルス感染症によるニューノーマルに対応し、行動を変化させていかないといけなくなっています。これまではリスクを十分に計算してセーフティーゾーンで活動することが当たり前でしたが、リスクすらわからないような不確実性のあるものにも、チャレンジしていく必要があるでしょう。

      髙橋 研究者としても、時代の変化に対応できるように最大限力を発揮していかないといけない。戦略を立てる上で、何か既存のものを代替する発想ではなく、自分のアイデアを“add” する発想が大切になってくると考えています。二者択一ではなくて、一方がダメだとしても、同時並行で別の方法で研究活動を続けられるような体制を構築する。

      七丈 私個人の場合は、特定の分野や組織に長く居続けるのではなく、外に飛び出し成果を出すことで、ユニークなキャリアを歩んできました。自分にとっては異分野でも、面白いと思った仕事は断らず、他の人ができないような条件のプロジェクトを、むしろ好んでチャレンジしてきました。分野や組織はこれからどんどん変化していくでしょうし、研究者のキャリアも多様化していくべきだと思っています。

      髙橋 多様化という視点では、URA(University Research Administrator)などの大学の事務側に博士人材が増えてきています。実は、2020 年6 月に実施した第49 回リバネス研究費日本の研究.com 賞では、「研究と社会を繋ぎ、研究成果の社会実装促進・情報発信と活性化に向けたあらゆる研究」というテーマで、URA 向けの研究費を実施しました。結果的に、ピントのあった課題感を持つたくさんのURA が集まり、ワクワクしています。

      七丈 海外でのURA 人材は、プロフェッショナルとしてその能力が重要視され、大学や研究機関の経営にも関わっています。日本のURA も、積極的に社会に出て活躍をするキャリアパスになると良いですね。

      髙橋 アカデミアと産業界をブリッジするURA は、科学技術の社会実装のために欠かせないコミュニケーターだと思っています。将来的には、URA から研究者になるのはもちろん、大企業やベンチャー企業、アカデミアの経営者として活躍する人材が当たり前のように出てくると良いと思っています。

      七丈 行動様式の変化、キャリアの多様化と用意されたレールを進むだけでキャリアが構成されるような時代ではなくなっています。むしろ、これからは変化や不確実な部分を楽しむことが大切になってくるでしょう。

      髙橋 研究者のキャリアの多様化と時代の変化により、若手研究者によるリバネス研究費の活用方法も、多くのパターンが出てくると思っています。小さい金額かもしれないが、100 回、200 回と今後も研究費は続け、研究者の夢の実現のきっかけとしていきたいですね。

      <リバネス研究費とは>

      「若手が自らのプランをアピールして研究費を獲得するチャンスが少なかった」という研究者を取り巻く環境の中で、2009年に若手研究者を応援するためのプロジェクトとして始まったリバネス研究費。2020年9月に第50回を迎え、実施企業は80社、採択者はのべ305名に上り、助成総額は1億1350万円を超えた。採択者の約8割は学生、ポスドク、助教であり、未来の日本をリードしていく研究者達だ。

      採択者たちのその後の活躍を見ていくと、採択後、研究代表として獲得している競争的資金の獲得総額は約74億円、平均約3,300万円と活躍している姿がうかがえる(「日本の研究.com」のデータベースより算出。 採択の次年からの研究代表者として獲得した研究費の総額)。

      リバネス研究費は、産業界からのヒントで何か新しいことにチャレンジしようとする若手研究者が集まり、アカデミアのみならず、ベンチャー企業、大企業へと共に未来を創るプラットフォームへと成長した。若手の登竜門として、今後もより多くの研究者にとって、一歩踏み出して自発性を磨くチャンスを提供し続けていく。

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